眼瞼下垂の症状があると、まぶたが開きづらくなるため視界が狭くなってきます。まぶたを開けるために無意識におでこや眉間に力を入れて眉を上げようとして、筋肉が緊張し首や肩こり、頭痛、慢性疲労などの体の不調を起こしますが、実は睡眠にも大きな影響を与えることがあります。

眼瞼下垂とは
眼瞼下垂は、上まぶたを持ち上げる筋肉(上眼瞼挙筋)の働きが弱くなり、まぶたが下がって目が開きにくくなる状態を指します。まぶたが重く感じたり、目を開けづらい、視界が狭くなるといった症状のほか、額の筋肉を使って無理に目を開こうとするようになります。
眼瞼下垂と不眠症に悩む人は意外と多い
普段何気なく感じる「まぶたが重い」「寝つきが悪い」「熟睡感がない」「気分が塞ぐ」「目が疲れる」「夕方になると目を開けにくくなる」「夜は目をつぶってTVを聞いている」「といった症状は、眼瞼下垂が原因の可能性があるため、睡眠障害や不眠症に悩む人が意外と多くいます。
まぶたが重くなり、視界が狭くなると、目を無理やり開けようとするため、まぶたの筋肉が常に緊張状態にあります。就寝時に目を閉じたとき、通常は目の周りの筋肉がリラックスします。しかし、眼瞼下垂の症状がある人は目が疲れやすく、目を開けているのが辛いため、夜に眠くなっても日中の緊張が続き目の周りが完全にリラックスできないことがあります。無意識におでこやまぶた、首、肩の筋肉が緊張しているため、寝返りをうまく打てないことや、眠りが浅くなることも増えます。また、何度も目が覚めるようになることがあり、「眠った気がしない」と感じる人も多いようです。
眼瞼下垂が不眠を引き起こすメカニズム
眼瞼下垂によって「まぶたを開けるための筋肉や神経に常に緊張がかかる」状態が続くと、体全体が“緊張モード(交感神経優位)”になりやすくなります。
慢性的な交感神経の興奮は、入眠しづらい・眠りが浅い・途中で目が覚めるといった不眠の症状が起こりやすくなります。また自律神経のバランスが乱れるため、日中に強い眠気を感じたり、夕方に早く眠ってしまうなど、睡眠リズムが乱れることがあります。
夜中に目が覚めやすい、寝つきが悪い、十分に眠れないといった睡眠障害を併発しやすくなり、睡眠の質の低下が日中の眠気や集中力の低下につながります。
眼瞼下垂と慢性的な疲労感にはミュラー筋が関係している?
「寝つきが悪い」「よく眠れない」「日中に強い眠気を感じる」などの睡眠障害と眼瞼下垂が関連するもう一つの要因は、慢性的な疲労感です。
まぶたの裏側には、まぶたを上げる主な筋肉である眼瞼挙筋と、それを補助するミュラー筋があります。ミュラー筋は腱膜の後ろに位置し、上眼瞼挙筋と瞼板を繋ぎ交感神経の働きに応じて収縮することでまぶたの開き具合を調整するセンサーのような役割も果たしています。
上眼瞼挙筋の機能が低下してくると、まぶたを上げようとしてミュラー筋が過剰に収縮します。ミュラー筋が過剰に収縮していると、交感神経の働きが活発になってきます。交感神経が眼を開けるために常に緊張している状態が続くようになると自律神経のバランスが崩れてしまい、疲労感や不眠症を引き起こす可能性があると考えられています。
顔面・頭頸部の筋緊張と身体ストレス
眼瞼下垂になると、まぶたを持ち上げる働きをする眼瞼挙筋とミュラー筋の動きが弱くなります。目を開けようとしておでこ(前頭筋)や眉の周り、こめかみ、首、肩などの筋肉を長時間緊張させる状態が続くため、肩こりや頭痛、目の疲れなどの慢性症状が起こりやすくなります。 その筋肉のこわばりが就寝時にも緩みにくくなることで血流が悪化し、自律神経のバランスや脳への酸素供給にも影響を及ぼし、睡眠の質が低下し不眠につながると考えられています。
眼瞼下垂による視覚・光刺激の変化
眼瞼下垂になると、まぶたが下がって視野が狭くなり、目に入る光の量や角度が変わります。日中は「視界が暗い」と感じて脳が覚醒しようと働いたり、夜間は光の刺激リズム(体内時計)が乱れたりすることがあります。光刺激の変化は、眠りを促すホルモンであるメラトニンの分泌タイミングにも影響し、睡眠リズムが崩れて不眠を引き起こす原因になると考えられています。
慢性疲労と心理的ストレスの連鎖
「まぶたが重い」「視界がぼやける」「集中できない」状態が続くと、知らないうちに疲れやストレスがたまりやすくなります。精神的なストレスは交感神経を活発にし、眠りを促すホルモンの分泌を妨げるため、眠れなくなったり、眠りが浅くなったりします。結果的に「眠れない → 疲れがたまる → 筋肉がこわばる → 眼瞼下垂の症状が悪化する」という悪循環に陥ることがあります。
眼瞼下垂手と不眠症に関する研究(論文参照)
「腱膜性眼瞼下垂と不眠の関連に関する研究(科学研究費助成事業・課題番号:26462728)」
松尾 清ほか:「腱膜性眼瞼下垂の手術で三叉神経固有感覚の誘発の減少による睡眠障害治療効果の研究」
科学研究費助成事業(課題番号:26462728)、信州大学医学部眼科学教室、研究期間:2014–2017年。
https://kaken.nii.ac.jp/ja/grant/KAKENHI-PROJECT-26462728/信州大学医学部の研究によると、まぶたを持ち上げる筋肉(ミュラー筋)の働きが弱くなる「腱膜性眼瞼下垂」の患者では、まぶたの下垂による三叉神経の刺激や交感神経の興奮が続くことで、不眠などの睡眠障害を引き起こす可能性があることが示されています。
実際に、不眠症状を訴える眼瞼下垂患者50名を対象に手術を行い、アテネ不眠尺度(AIS)で睡眠の質を評価したところ、手術前の平均スコア9.1±4.0に対して、術後2週では4.2±3.8、術後6か月では4.1±3.3と有意に改善がみられたと報告されています。
この結果から、眼瞼下垂の改善が、まぶたや顔面の筋緊張を軽減し、自律神経のバランスを整えることで、睡眠の質にも良い影響を与える可能性があると考えられています。
眼瞼下垂で眠れない方にセルフチェックがお勧め
慢性的な疲労感や、眠りが浅い、昼間に眠気を感じる方でまぶたの開きが気になる方は、眼瞼下垂のセルフチェックを試してみることをお勧めします。
眼瞼下垂のセルフチェックではご自分のまぶたがしっかり開いているかを確認します。まず、顔を正面に向け目を軽く閉じた状態で、眉の上を指で押さえて。目を開けてください。このとき目が開きにくかったり、おでこや眉に力が入っていないか確認しましょう。
眉毛やおでこ(額)を動かさないと目を開けることができない場合、まぶたの筋肉が衰えているかもしれません。
眼瞼下垂の手術で「睡眠障害」「不眠症」は治る?
眼瞼下垂の手術は、挙筋腱膜を瞼板に近づけて縫合して固定することで、挙筋の働きが回復しまぶたを開ける機能を改善します。無意識に力が入っていたおでこ、眉の筋肉にかかる負担が減少し、肩や首の痛み、頭痛が軽減されることが期待されます。
またミュラー筋を使ってまぶたを開ける必要がなくなるため、交感神経と副交感神経のバランスが取れるようになるので、睡眠障害、不眠症も改善する効果が期待できます。
眼瞼下垂手術で睡眠障害・不眠症が必ず改善するわけではないが・・・
慢性的な疲労感や頭痛、不眠症などの睡眠障害の原因に眼瞼下垂が関係することがありますが、眼瞼下垂の術後も、おでこで目を開ける癖が取れない方の場合は、額や目の周りの緊張が続くことで、リラックスできない状態が続くことがあります。
睡眠障害の原因が眼瞼下垂の場合は、ある程度は手術後に症状が改善されることが多くあります。手術によって、まぶたが開きやすくなり、まぶたの筋肉の緊張が緩和されることで、交感神経の過剰な刺激が解消されると、睡眠の質も改善され夜間にしっかりと休息を取れるようになります。
まぶたが開きづらく、良い睡眠が取れないからと言っても必ずしも眼瞼下垂であると断定はできませんが、まずは専門の医師・クリニックでカウンセリング時に相談しましょう。
眼瞼下垂と睡眠の質
眼瞼下垂はまぶたの開きの問題だけと思われがちですが、体全体の健康に深く影響を与えています。睡眠の質が低下することで日中の活動や集中力に影響が出るようになります。眼瞼下垂の症状が気になる場合は、自己判断で放置することなく、早めに専門の医師に相談しましょう。
不眠症と眼瞼下垂についてよくある質問
- Q まぶたが重くなってきた原因は何ですか?
- A まぶたが重くなる原因には、眼精疲労、眼瞼痙攣、眼瞼下垂など様々な原因があります。眼瞼下垂は加齢と共に上眼瞼挙筋と瞼板との結合部分が緩んでくる為にまぶたを開ける力が弱ってくるため、まぶたを開けるのが重く感じるようになります。
- Q いつまでも目が開けづらい原因は何ですか?
- A 目が開けづらくなる原因には、睡眠不足、ストレスなどによる眼瞼痙攣や、テレビやパソコン、スマホなどを長時間見続けたり、メガネやコンタクトが目に合っていないことも原因となります。さらに、精神的なストレスが原因で眼精疲労が起こることもあります。また、頭痛や肩こりが強いなどの症状がある場合は眼瞼下垂の可能性があります。眼瞼下垂は、「挙筋」の働きが悪い為におでこの筋肉で眼を開ける訳ですが、おでこは疲れやすい筋肉なので、長い時間眼を開けていると非常に疲れます。
- Q 眼瞼下垂が不眠症や睡眠障害の原因になることはありますか?
- A 眼瞼下垂の症状があると、まぶたが上がらないことで視界が狭まり、無意識におでこや眉間の筋肉を使って目を開けようとするため、おでこや眉間の筋肉の緊張が続きます。この緊張状態が就寝時にも影響し、リラックスできず眠りが浅くなることがあります。また、交感神経が常に刺激されているため、自律神経のバランスが乱れ、不眠症や睡眠の質の低下を引き起こす可能性があると考えられています。
- Q 眼瞼下垂の手術を受けると不眠症は改善されますか?
- A 眼瞼下垂の症状がある場合、手術によってまぶたの開きが改善されると、おでこや眉間の筋肉の緊張が和らぎます。交感神経の過剰な働きが抑えられ、自律神経のバランスが整って、不眠症や睡眠障害の改善が期待できます。ただし、手術後もおでこを使って目を開ける癖が残っていると、筋肉の緊張が続いてしまい、不眠症が十分に改善されない可能性もあります。
- Q 眼瞼下垂が原因で日中でも強い眠気を感じることはありますか?
- A 眼瞼下垂の症状は、無意識におでこや眉間の筋肉を使って目を開けようとするため、おでこや眉間の筋肉の緊張が続きます。緊張状態が続くと、目の疲れや頭痛、肩こりなどの症状が現れ、日中でも強い眠気や集中力の低下を感じることがあります。
- Q 自分が眼瞼下垂かどうかをセルフチェックする方法はありますか?
- A 顔を正面に向けて目を軽く閉じ、眉の上を指で押さえます。その状態で目を開けたとき、眉やおでこに力を入れずに目を開けられない場合、まぶたの筋肉が衰えている可能性があります。眼瞼下垂の症状が気になる場合は、カウンセリングでご相談ください。
眼瞼下垂と不眠症の関連記事
-
眼瞼下垂手術の保険適用の条件
-
高齢者の眼瞼下垂、老け顔の原因になる眼瞼下垂
-
しつこい肩こりや頭痛、目の疲れは眼瞼下垂が原因かも
-
ひどい頭痛、眼瞼下垂が原因かも。頭痛と眼瞼下垂の関係とは




─ DOCTOR COMMENT ─ドクターコメント
眼瞼下垂の手術を受けることで改善される方はごく一部かも知れませんが、実際に手術後に改善された方は少なくありません。不眠症の方は睡眠薬に頼る前にまずは眼瞼下垂か否かを確認してみてはいかがでしょうか。